エミール・クーエの催眠療法と自律訓練法

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エミール・クーエの催眠療法と自律訓練法

エミール・クーエはフランスの小さな町の開業医だった。その治療法は、きっとよくなると患者を励まし、前向きで肯定的な発言や考え方を指導し、症状がよくなるという暗示を与えるものだった。  

クーエの暗示の与え方は、たとえば不眠を訴える患者に対しては、「毎晩、あなたは眠りたいと思う時間に眠り、翌朝目覚めたいと思う時間まで眠り続けるだろう。あなたの眠りは静かで、安らかで、深く、悪夢やその他の好ましくない状態に悩まされることはない。

目覚めたとき、あなたは快活明敏で、仕事に積極的な気分となるだろう」(C・H・ブルックス、エミール・クーエ『自己暗示』河野徹訳)と、良くなった状態を、イメージ豊かに語るものだったという。

また、患者を横たえさせて、リラックスさせ、その耳元で、あなたの心身はどんどん良くなっていると繰り返す暗示を囁くという方法を取った。

抱擁や愛撫と組み合わせることで、暗示療法による効果に加えて、愛着に関係のあるオキシトシン系を介した効果が相乗したと考えられる。

オキシトシンは、抱っこや愛撫といったスキンシップによって分泌が高まり、抗不安作用や抗ストレス作用をもち、さらに免疫系や成長ホルモンの働きを活発にする。

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エミール・クーエ

マッサージ療法などでも、その効果が裏付けられているが、それは、薬を投与するに勝るとも劣らない作用を及ぼし得る。クーエが子どもの患者に対して行っていたように、「なおる、なおる、なおる……なおった」と、患部を撫でながら、一緒に唱えさせることは、決して非科学的ではなく、むしろ、消毒薬を塗ったり、必要もない薬を飲ませるよりも、ずっと医学的にも妥当性をもつ行為だといわれている。

クーエの自己暗示療法は、誰でも自分で行うことができる。そしてその自己暗示法は、さまざまなセラピーや訓練に採り入れられている。

治療中やリハビリ中に、「私はできる」とか「それ(症状)は消える」といった言葉を唱えさせる。さらに「クーエの暗示」としてしられる言葉を、自宅でも毎日唱えるように言った。それは「日々に、あらゆる面で、私はますますよくなってゆきます」(同)というものだった。  

この治療法は非常に効果が高かったので、その療法はすっかり評判となり、クーエの医院には、彼の診察を受けるためにフランス中から患者が押し寄せてきたという。 劇的によくなる患者を見て、周囲の患者もまたよくなっていくという良循環を生み出したのだ。 

クーエの診察室は、明るく開放的で、診療所らしくないくつろいだ雰囲気に満ちていたという。クーエの態度も、気さくで親しみのあるものだったが、指示を与えるときや暗示を与えるときだけは、権威をもった態度になった。

クーエの治療が劇的な効果をもたらしたのは、心身症や神経症などの心因性疾患だったが、彼の治療は、器質的な原因で起きている疾患にも、ある程度効果があった。

喘息、てんかん、脊柱側弯症、結核性骨髄炎など、当時の医学では治療が困難であった疾患が、完治またはコントロール可能になったという。

こうした治療を、クーエは一日十時間以上も行い、しかも診察代はいっさい無料だったという。70歳近くまで、奉仕のために人生を捧げたのだ。

 

脳が作りだす現実への影響

エミール・クーエは、こんな事を言っている。
幅40-50センチ、長さ10メートルの厚板を地上に置いて、その上を歩く事は誰でも簡単にできる。しかしこの板を、何十メートルもの高さにおけば、
ほとんどの人は、1メートルも進めない。

そればかりか、足を踏み外して落ちる人が続出するに違いない。これは「落ちるかもしれない」という恐れが生じたためである。

脳が無意識的に、落ちる光景を想像してしまっているのだ。
そうなると、いくら意識的に「落ちないように歩こう」と言い聞かせても、
身体は無意識のイメージに左右されてしまう

ちなみにクーエの診療所で働いていたマドモアゼル・コフマンという女性は、児童の治療を専門に行ったが、その効果は、師のクーエをも凌ぐものだったという。

彼女は、眼瞼下垂のため七歳まで目が見えなかった子どもの視力を回復させたり、当時は、有効な薬もない結核性の病気を完治させるなど、文字通り〝奇蹟〟とも言える回復を引き起こしていた。

彼女の治療は、その子どもを抱いて、優しく愛撫しながら、段々よくなっていることを語り続けるというシンプルなものだった。そして、親にも子どもが希望をもてるように、決して否定的なことは言わず、前向きなことだけを話すように指導したということだ。

これは自分自身に対しても同じことだと思う。自分の心を抱き抱えて、段々よくなっていることを語り続けるというシンプルで愛情のある行動が、自分のうちなるインナーチャイルドを救い上げるということになるのかもしれない。


 


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